『おばあちゃんの贈り物』-許嫁(いいなずけ)とか意味わかんない-
「なんや。おめぇか」
「え…」
 この声は――まさか、ゾンビ男?
「あー、たーけらしい。よそいきのしゃべりかたなんか、するんやなかったわ。ほれ、突っ立ってないで入りゃあ」
 やっぱり。
 このしゃべりかた。
 今日は生ワカメみたいなクタクタの髪をしているけど、ゾンビ男だ。
「なん? みとれとんのか、おれに」
「――はぁぁああ?」
 とんでもない言葉に一瞬フリーズしたけど、すぐ持ち直す。
 にらみつけるとゾンビ男がぷぷっと吹いた。
 なにがおかしいんだ!
「手伝ってくれるんやろ?」
「…………」
 見張ってやるんだ、ばか。


「失礼しまっす」
 礼儀のなんたるかを教えてやるべくキリッと言って。
 リビングに一歩ふみこんで、びっくり。
 ゾンビはおばあちゃんのリビングを寝室にするつもりらしい。
 さっき床にばらけたのはパイプベッドの骨組みだ。
 黒いマットレスが、どでーんと壁にたてかけてある。
(まじ?)
 ドアを開けたら、いきなり寝てるわけ?
 かんべしてよね、んもう。
(それにしても……)
 2階まで聞こえていた引越し屋さんの緊張した声のわりに荷物が少ない。
 きょろきょろ見回していたら、
「あれ?」
 いつの間にかゾンビの姿が、どこかへ消えていた。
「ちょっとお」
 お母さんが降りてきたとき、なにもしてなかったら、アブナイんだよ、あたしは。
「もしもーし?」
 どこ行っちゃったのよう。
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