無口な彼の熾烈な想い
「鈴、起きて。着いたぞ」

「う・・・えっ?着いたって・・・どこに?」

耳元に感じる吐息をくすぐったく感じた鈴は、聞こえてくる甘くて低く通る声にうっとりしながら目を開けた。

ゲーム内の2次元推しメン゛ソウくん゛の中の人(CV:キャラクターボイス)の声に似ているが、その人がここにいるとは思えないからこれは夢なのだろうとぼんやり思っていた。

「あれ?ここはマンションの駐車場だよね。ってことは、ああー、ごめんなさい。絢斗さんに迷惑かけちゃった。せっかく夜景が綺麗なところに連れていってもらったのに」

鈴は慌てて姿勢を正すと、車内ではあったが最敬礼で謝った。

「全然大丈夫。寝顔可愛かったから」

あれれ?絢斗さんってこんなキャラだったっけ?

想定外の甘い誉め言葉に、一瞬唖然となった鈴だったが、すぐにその内容を理解し真っ赤になった。

「ね、寝顔が可愛いとか、絢斗さんらしくない発言ですね・・・(汗)」

「思ったことは口にすることにしたんだ」

「ソ、ソウデスカ」

何が彼を変えたのか?もちろん鈴に決まっているのだが、当の本人は全く自覚がない。

「と、いうか、ここはマンションの駐車場のように見えるのですが・・・」

車を持たない鈴には本来駐車場を持つ必要はない。

しかし、兄夫婦や祖父の来訪に備えて駐車場は確保していた。

いつもならマンション前のロータリーに車を停める絢斗だが、今日はどうしたのだろう?
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