無口な彼の熾烈な想い
午後の診療は、予防接種や予定の健診、トリミングや薬の処方で終わった。

午後の診療は19時まで。

そろそろピーちゃんの飼い主(代理)、三次元イケメン瀬口が鳥籠を持って現れるはずだ。

当直明けでもあるため、兄夫婦に任せて帰ろうかとも思ったが、袖振り合うも多生の縁。

最後まで責任を持とうと、鈴は瀬口の来院を待つことにした。

「鈴ちゃん、帰ってもいいのよ?それともインコオーナー瀬口が気になるとか?」

「イケメンだったんだろう?その上、オーナーシェフとの出会いとかなかなかあるもんじゃない。頑張らなきゃね」

ニヤニヤする兄夫婦が本当にうざったい。

「無自覚にインコを発情させて卵詰まりにさせるような三次元イケメンなんて、ここでしっかり教育して在宅ケアをマスターして帰さないとピーちゃんが不幸になっちゃうから」

鈴は事前に作成していたインコの育て方、飼い方のパンフレットを受付に置くと、大人しく籠の中の止まり木にとまっているピーを見て微笑んだ。

鈴は幼いときに、瀬口と同じく、飼っていたインコを卵詰まりで亡くしそうになった経験がある。

同居していた獣医の祖父が適切に処置をしてくれたため事なきを得たが、あのときの恐怖が、鈴が獣医師を目指すきっかけとなったと言っても過言ではないほど衝撃的な出来事だった。

生きている以上、何事も知らなかったではすまされない。

鈴は貪欲に知識を得ようと学業に取り組んだ。

それだけではなく、お祖母ちゃんの知恵や雑学から無駄知識まで何でも吸収しようとした。

のめり込む性格が、2次元乙女ゲームにまで及ぶことにはなったのだが、残念ながら3次元男子には今だ興味はないのが鈴という残念な女子だった。
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