無口な彼の熾烈な想い
「ほら、ふらついてるぞ」

助手席から降りようとした鈴は、思った以上に足元に力が入らず、絢斗にしっかりと支えられて歩くはめになった。

自分とは何もかもが違う、逞しくて男らしい引き締まった身体つき。

爽やかな香りとは裏腹に男らしいフェロモンらしきものが漂ってきて鈴の頭はクラクラしていた。

イケメンと呼ばれる兄だが、あまり筋肉はなくどちらかといえば中性的だ。

もう一人の異性である祖父はお年寄り過ぎて論外だし、滅多に会わない実父にいたっては中年太りを通り越し、今やイケメンと呼ばれた頃の見る影もない。

最推しの2次元イケメン゛ソウくん゛も細マッチョ設定だが、架空の世界に生きる彼に鈴が触れることは生涯ない。

どんなに萌えようと、愛しく思おうと抱き締めることは叶わないのだ。

それを寂しいとは感じたことはなかったが、こうして絢斗に寄り添っていると、人の温もりや優しさが感じられて安心するのだな・・と鈴は実感していた。

「部屋はここであっているか?」

絢斗に身を預けてぼんやりしていた鈴は、いきなり目の前に見慣れた玄関が現れて驚いた。

505号室、それは間違いなく鈴の部屋番号だ。

「はい、間違いありません」

犯罪を自白されられた犯人のように、鈴は緊張した面持ちで頷いた。
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