無口な彼の熾烈な想い
「絢斗さん、ここってどうやったらたどり着くんですかね?」

園内マップを手に、顔を寄せてくる鈴の距離が近い。

入場料をどちらが払うかでしばらくもめたが、突然の動物園行きを思いたったために、入場券を事前にネット購入しなかったのは絢斗の落ち度だ。

お礼のお礼のお礼・・・にこだわる鈴に、絢斗も諦めて入場券は奢ってもらうことにした。

鈴の格好は普段着(以下)だが、漂ってくる香りは甘い。

風呂上がりのような、これはシャンプーやボディソープの香りだろうか。

絢斗が動揺しながらも真面目な顔で身をよじると

「あ、近かったですね?ごめんなさい。臭かったですか?」

と、鈴は自分の腕をクンクンと臭い始めた。

「いや、このような距離感には慣れてなくて・・・」

「えっ、絢斗さん!モテそうなのに意外・・・でもないか、ツンツンだし・・・」

後半は何を言っているのかわからないくらいちいさな声だったが、男性との近しい距離感にも動揺すらしない鈴の堂々とした態度に、絢斗はモヤモヤが募ってくる。

「ここをこうやって行けば近い」

この際と、開き直ってもう一度鈴の方に顔を寄せれば、鈴の満面の笑顔が目に映る。

「私は極度の方向音痴で・・・。だから地図を見ただけで完璧に把握できる人って尊敬しちゃうんです」

フリでも打算でもない、自然な態度と笑顔。

「行こう」

絢斗はそんな鈴の態度に後押しをもらい、鈴の手を引くとお目当ての場所に向かって第一歩を踏み出した。



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