無口な彼の熾烈な想い
『で、三次元ツンツンイケメンとはどうなったの?チューぐらいはした?』

明け透けな質問に鈴は口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

すでに出会ってから3回目とはいえ、まともに接したのは今日がはじめてだ。

硬派な絢斗と警戒心バリバリの鈴が一緒にいて何か起こるはずもない。

推しに近い感情を抱きつつあるとはいえ、相手は対応を失敗することはできないリアルな存在なのだ。

傷つけたからといって、リプレイボタンを押すことも、シャットダウンして1からやり直すことも、アンインストールすることもできないのだ。

思いつき考えつきで行動するはずがない。

っていうか、絢斗とキスするなんて想像もしていないし!

少しは人間味が出てきたとはいえ、あの基本無表情な絢斗が恋愛なんかするのだろうか?

独占欲や庇護欲バリバリで女性に迫る姿など想像もつかない。

いや、あの低い声で甘く囁くとかは、日常生活でもありそう、ってか、たまにそんな雰囲気を醸し出していたような・・・?

自分の妄想に真っ赤になる鈴であったが、そんな鈴の妄想を掻き立てた癖に、瞬時にそれをぶったぎるのもかなえであった。

『てか、話を聞きたいのはやまやまなんだけどさ、他の案件にも追い詰められている状況なのであるわけよ。というわけで、ここら辺でドロンさせてもらうわ。あばよ』

どういうわけかは、締め切りに追い詰められたかなえに何度も付き合わされた経験からわかっている鈴である。

『おう』

鈴はそんな短い挨拶でトーク画面をシャットアウトした。

マイペースなかなえの相手は疲れるが、気を遣わなくてもよいので、ある意味楽ではあった。

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