無口な彼の熾烈な想い
「関口さんの話では、フクロウカフェに代わる代替え案を瀬口さん本人が出してきたらしいんだ。その件には鈴にも関わる同意を得たと言っているらしいし、しばらくは傍観だな」

千紘は今だうっとりしている玖美の肩を叩いた。

「ほら、トリミングの予約のお客さんが来る時間だよ。仕事しようか」

うっかりしていた、とばかりに立ち上がる玖美だったが

「だったら鈴ちゃんに有給休暇あげなきゃね。鈴ちゃんたら、もうずっと週休以外の休みを取ってないでしょ?ブラック企業って言われたくないわ」

と、頭の中はいまだに鈴と絢斗のことでいっぱいのようだった。

実のところ、鈴がいなくてもひらのペットクリックは仕事がまわる。

動物看護師を雇った方が給料も安くて済む。

鈴も動物イラストの副業収入や祖父から生前贈与された財産があるため、贅沢をしなければあくせく働かなくても暮らしていくことはできる状況だ。

しかし、安月給でも鈴がひらのペットクリックを辞めないのは、安心できる居場所を求めているからだ。

有給休暇を申請しなければならないほど、鈴には休みの日にしたいこともなければ、会いたい人もいないし行きたいところもなかった。

そんな引きこもりぎみな喪女の鈴の前に、差し込んだ一抹の光(それは希望)。

兄夫婦は絢斗の計画がどんなに拙いものであろうと、できるだけ協力しようと心に誓うのであった。
< 74 / 134 >

この作品をシェア

pagetop