無口な彼の熾烈な想い
「何々?ピーちゃんの飼い主は・・・瀬口絢斗、28歳・・・。この名前、どっかで聞いたことがあるな。鈴、彼はイケメンだったかな?」

兄は数少ない若いペットの飼い主が来ると、鈴の相手にどうかと目を光らせる。

困った奴、いや、余計なお世話である。

「あっ、それS区にある今話題になってる創作料理店のオーナーシェフと同じ名前じゃない?店の名前はたしか・・Flower of Kent at EAST。ほら、先月号のガイドブックに載ってた・・・」

兄よりはお節介ではないが、義姉・玖美は、どちらかというと流行に左右されやすくミーハーだ。

゛Flower of Kent ・・・゛

゛ケントの花゛とはセイヨウリンゴの品種の一つで、ニュートンが万有引力を発見したときのリンゴとされている、別名゛ニュートンの木。

雑学が好きな鈴は、

゛創作料理だから選んだ名前なのかしら?素敵なネーミングセンスかも゛

と、3次元イケメン瀬口を少し見直した(もしも彼の店ならばだが)。

だが、あの無口なツンツンのみで、デレない男が、繊細な料理を作り出したり、にこやかに接客やセールスができるとは思えない。

きっと別人だろうと確信し、鈴は゛全くもって興味ない゛という体で、姉に一言お休みの挨拶をすると、2階の兄夫婦宅に向かい朝食とお風呂を拝借することにした。
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