無口な彼の熾烈な想い
「お待たせ致しました。お料理のサーブを開始してもよろしいですか?」

「はい。宜しくお願いします。色々と想像を膨らませてきたので楽しみにです」

鈴は、ルイに向けていた顔を絢斗に向けると首を傾けて微笑んだ。

ルイが部屋から出ていくと、

「呆れただろ?一言も言い返せなくて」

再びうつむいた絢斗はそう、ボソッと呟いた。

「言い返せないのではなくて、言い返さなかったんでしょ?私もそんな頃があったからわかるよ」

鈴の言葉に驚いて顔を上げた絢斗だったが、鈴は相変わらず明るい口調で続けた。

「あの手のタイプは心の成長が止まったままなの。親だからといって、精神年齢が子供より上とは限らない。動物の方が遥かに大人だって感じることが多々あるよ」

絢斗には鈴の言葉が衝撃的だった。

『大人の言うことは絶対』『子供は黙って親に従うべき』

そう言いくるめられて育った。

体が大きくなって、体力的には反抗できるようになっても、そもそも男らしさを毛嫌いしている彩月にその手を使って反抗するのは悪手だった。

黙って従えば満足してもらえる。

体つきが女の子と変わらなかった幼い頃は、それで乗りきることができた。

しかし、思春期を過ぎればそうはいかない。

罵りをやり過ごし、無言で抵抗を示せばいずれ諦めてくれる。

そんな拙い抵抗手段しかとれないまま中学生となり親元を離れた絢斗には、それがベストで正解な方法だと刷り込みができ、今日まで経過してしまったのだろう。
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