離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 
 次の日。退勤後、従業員が出入りする裏口から店を出た私は辺りを見渡した。

 よかった。今日はいない。店長が配慮してくれてカウンターの中で作業をするようにしていたし、あの男性客も私が出勤しているのに気がつかなかったのかも。

 そのおかげかあの男性は店にも現れなかった。今日は大丈夫そうだ。

 ほっと胸を撫で下ろした私は、一緒に店を出てくれた『ダンルダルジャン』の店長に声をかける。

「店長。大丈夫そうです。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「梅原さんが謝らなくていいから。むしろこんなことになってごめんね。家まで送るよ」

 物腰柔らかで見るからに温厚そうな店長が、申し訳なさそうに眉尻を下げながら言う。

 私よりひと回り年上で最近娘さんが生まれたばかりの店長は、私があの男性客について話したときも何度も謝り、とても心配してくれた。

 そのあまりの心配ように、店長が悪いわけじゃないのにと心苦しくなったほどだった。
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