離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「初めて店で見たときから、梅原さんのこといいなって思ってて」

 興奮状態のような男性は呼吸が荒く、その吐息が私にかかる。

 怖い。逃げ出したいのに、あまりの恐怖に手足がすくんで動けなかった。

「梅原さん。店長と付き合ってるの?」

 男性の問いかけに、私は「えっ?」と当惑して声を漏らす。

「店長の車で駅まで送ってもらってたよね」

 そう言った男性が、「あー。梅原さんは俺のなのに、あの店長あり得ないな。俺たちを引き離そうとしてるのかな」とひとり言のようにぶつぶつとつぶやき始める。

 店の前から見られていたんだ。

 刺すような恐怖が私の背中を駆け巡った。勝手な妄想を当然のように信じ込んでいる男性に、心臓が凍りつく思いがする。
< 116 / 204 >

この作品をシェア

pagetop