離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 膝がガクガクと震え、お願いだから転ばないでと自分自身へ願った。

 マンションの敷地内に入り、わずかに気が緩んだ瞬間。私は背後から思い切り腕を掴まれ、身体をうしろへ引かれた。

 バランスを崩してよろける私を、その人物は建物の物陰へと引き込む。

 私はなんとか体勢を立て直し、勢いよくその人物を見上げた。正体を確認した私は、その姿を認めて大きく目を見開く。

 私の腕を掴んでいたのは、昨夜店の前で私を待ち伏せていたあの男性客だった。

 全身から血の気が引いていくのがわかる。私は頭の中が真っ白になった。

 いないと思っていたのに、いったいどこから着けられていたのだろう。

「梅原さん、だよね」

 男性は、私の腕を掴んだまま言う。マンションから漏れ出る灯りに照らされた男性は、この間と同じ、ニタリと妖しい笑顔を浮かべていた。
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