離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
『よかった。君になにかあったら俺は生きていけないから』

 私の返答のあと、そう言ってゆったりと微笑んだ高城の顔が脳裏を掠める。

 生きていけないなんて大げさな。そもそも私を好きだと言ったのだって、本当かどうかなんてわからないのだから。

 あの男の言葉など信用できない。

 そう思うのに、私はみるみる全身が熱を持っていくのを感じた。久しぶりに身体を重ねたせいか、あの男のことを考えると反射的に羞恥心が込み上げてくる。

 今朝もまだ高城の前でどんな顔をすればいいのかわからなくて、早めに家を出てきてしまった。帰ったらどのみち顔を合わせるのだけれど、少し心の準備が必要だったのだ。

 思いなしか決まりが悪い心持ちになった私は、ふーっとため息をつく。

 すると、入店を知らせるドアベルの音が響いて、私は顔をそちらに向けた。入ってきた人物とすぐに目が合う。その人物を目に映した私は「あ」と小さく声を漏らした。
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