離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 私の幸せは、一番あり得ないと思っていた場所に存在していた。そのほかにもこんなふうにいろんな場所にあったはずなのだけれど、ひとり殻にこもっていた私はたくさんの愛情を見ないふりしていた。

 父を亡くしたことは真実でも、孤独ではなかったのに。

 周りの優しさに絆されて、いつか復讐を躊躇する日がきたらと怖かったのだ。あのときは深い悲しみに打ちのめされて、誰かを恨んでいないと立っていられなかったから。とても弱かった。

 でも悠人さんに、自分が周りにどれだけ愛されていたか気づかされた。

『まつり。誰かを愛し、誰かに愛される人間になれ。たったひとりでもいい。信じられる人を見つけられたら、たとえささやかでも幸せになれる。孤独な人生ほど寂しいものはないぞ』

 いつかの父の言葉が脳裏に浮かぶ。

 今まで前だけを見て突き進むしかなかった私は、ようやく立ち止まり、辺りを見渡す余裕ができたのだ。

 悠人さんが殻を割り、手を差し伸べてくれたおかげだった。
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