離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「もっと信用してくださいよ。私が見ているのは悠人さんだけですってば」

 私は、唇を尖らせて抗弁した。

「……今のはまつりが悪い」

 そうぽつりとつぶやくのが聞こえてきた次の瞬間。私は強くかき抱かれ、唇が塞がれる。驚きで心臓が大きく高鳴った。

 悠人さんの肩を手のひらで叩くけれど、彼は離してくれる気配がなくて、口づけはどんどん深くなっていく。

 私が諦めて身を委ねようと彼の背に腕を回したそのとき。再びドアをノックする音が耳に届いて、私は慌てて悠人さんの胸もとを押し返した。

 身体を離した彼は、何事もなかったかのように「俺が行くよ」とドアのほうへ向かっていく。

 耳まで熱くなっていた私はルージュが乱れていないか心配になり、横目にドレッサーの鏡で口もとを確認した。
< 186 / 204 >

この作品をシェア

pagetop