離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
エピローグ
「ママ、みて! こんなにおはなとれた」

 蝉の声も弱々しく感じるようになった夏の終わり。麦わら帽子をかぶり木陰に敷いたシートの上でひとり座っていた私は、私を呼ぶ声に顔を上げた。

 手に持った花を高く掲げ、暑さで顔を真っ赤にした樹里(じゅり)が、こちらに駆けてくる。私は危なっかしさがわずかに残る足取りのわが子を両手を広げて抱き留めた。

「わぁ。こんなにたくさんとれたの? 綺麗だね」

 私がそう言うと、同じように麦わら帽子を頭に乗せた樹里は、「ママにあげる」と嬉しそうに肩をすくめて笑った。

 その様があまりに愛おしくて、私は表情を崩す。

 この子は、もうすぐ三歳半になる娘の樹里だ。

「ありがとう、樹里。ママ嬉しいな」

 いつになっても、わが子は本当に可愛い。樹里は私たち夫婦にとってかけがえのない宝物だった。
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