離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる

　それなので、容姿から気づかれる可能性は低いはず。

　そして、藍野の娘とバレないよう苗字も引き取られた家の名前である梅原に変えた私は、この男に復讐するために『藍野』の名を口にせずに生きてきた。

　この世で一番憎い相手。紳士のような仮面を被っていても、この男は冷徹な人間だ。この男が父を殺したようなものなのだ。

　憎しみがふつふつと頭に湧き返ってくる。

　でもまさか、この男のほうから近づいてきてくれるとは予想もしていなかった。

　いきなりふたりで話せるなんて。これできっかけもできたし、あとはうまく距離を縮められればチャンスはある。

　私の計画は、高城と結婚することだった。どんな形でもいい。結婚して、この男の気持ちをこちらに向け、この男が私を手放せないくらい想いを深くしてきたところで離婚する。

　信頼を裏切られる気持ちを思い知ればいい。私は、あのときの父の絶望をこの男にも味わわせると心に決めたのだ。