離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる

　高城の様子を窺っていると、ふと男が口を開いた。

「先ほどこういった場は不慣れと言っていたけど、今日はどうして？」

「もともとは知り合いに誘われていたんです。でも、その知り合いが急に仕事で一緒に来られなくなって」

　今日のために何度も頭の中で受け答えの練習をしてきた私は、そのときの記憶を思い返しながら慎重に答える。

　冷やされているのに、緊張で手に汗が滲んでいくのがわかった。それが高城にバレてしまうのではないかと徐々に鼓動が高まっていく。

「それでひとりで」

「はい。カフェで働いているので、ホテルのお料理を見るのもなにか勉強になるかもしれないと思って。なんて、場違いですね」

　私は自嘲気味に笑う。すると、高城もふっと小さく笑みをこぼした。