離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「それなら私がご一緒しましょう」

 男性の吐息が耳もとにかかり、背筋がゾッとした。私は慌てて男性の腕から抜け出す。男性からは、ひどくアルコールの匂いが漂っていた。

 この人酔ってるの? 企業パーティーなのに、いったいどれだけ飲んでいるんだろう。

 男性はお酒のせいかつやつやと額まで赤くなっていて、目が据わっていた。

「すみません。ご挨拶しなければならない人がいるので、また。失礼いたします」

 言い終えた私が立ち去ろうと小太りの男性に背を向けるけれど、「そう言わずに」という声と同時にうしろから腕を引かれる。

 私が顔だけ振り返ると、小太りの男性は「せっかくの懇親会なんだから仲良くしましょうよ」と火照った顔をいやらしく緩めていた。

「離してください」

 私が抵抗して腕を引く。すると、気分を害したのか、男性の目尻が険しくつり上がった。
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