離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「なんだ。今さら純情ぶって。出入り口のドアの前にひとりで突っ立って、誰かが声をかけてくれるのを待ってたんだろ」

「そんなわけ……!」

 小太りの男性の言葉にとっさに反論した私は、途中で我に返った。

 このまま無理に振り払ってしまいたいけれど、これ以上小太りの男性に声を荒げられれば注目されて騒ぎになる。

 そんな事態になればあの男に近づくどころか、下手をすれば私はこの小太りの男性と一緒に会場を追い出されるかもしれない。

 今日は、長い間待ってやっと巡ってきた機会なのだ。こんなトラブルが原因で台無しにするのだけはなんとしても避けたい。

 でも、多忙なあの男がいつまでも会場にいる保証はないし、この人の気が済むまで話している時間なんてない。どうしよう。

 頭を悩ませている私が大人しくなったことに気をよくした小太りの男性が、空いたほうの手で手の甲を撫でてくる。
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