離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 ふと視界の端にあったあるものが目に入り、私はそれをふたつ手に取って茶色い紙袋に入れた。

 別に高城がどうなろうとかまわないが、私は今、あの男のよい妻だもんね。

 そう心の中で告げながら、待っていた高城にふたつの袋を差し出す。案の定男は紙袋を見て不思議そうな面持ちになった。

「これは私から。この店手作りのサンドイッチです。忙しくてもちゃんと食事はとってくださいね」

 私が言うと、高城は柔らかく目尻を下げる。

「ありがとう。いただくよ」

 嬉しそうに袋をふたつ手に取った男は「じゃあ、またあとで」と言い残し、店から出ていった。私は窓の外に映る高城の姿が離れていくのを確認し、身体中の力が抜けていくのを感じる。

 まさか本当に来るとは思わなかった。

 伏し目になり思考を巡らせていた私の背後に、突如ぬっと黒い影が現れる。
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