離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 あのままの勢いで夫婦らしく距離を縮めれば、気持ちが動くのもそれほど時間がかからなかったと思う。

 しかし、あの夜の出来事は私にとってあまりに衝撃的で、いまだに心が追いついていなかった。

 誰にも見せた経験がない自分のあんなあられもない姿をさらしておいて、どんな顔をして話せばいいのかわからない。皆こういうときはどうしているんだろう。

 幸いにもあの夜以来求められてはいないけれど、次いつ求められるだろうと思うと夜を迎えるたびに気が気ではなかった。

 改めて自分の経験値の低さにため息が漏れ出る。

 私はコーヒーの入ったカップにふたをして、カップスタンドを立てた透明な袋に入れた。

 もうひとつのコーヒーは、以前話していた秘書の分だろうか。
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