時空とか次元如きが私とレイきゅんの邪魔をしようなど……笑止!!
「――お前は、何だ?」



 さてさて、私、フェルチアは今、良く分からない状況に陥っている。
 目の前には真っ黒な不気味な人影――威圧感のある人の形をしたナニカ。



 ――目の前の存在は、多分、『魔王』。





 何で私がそんな状況に陥っているかと言えば、少し前にさかのぼる。





 私とレイきゅんは、『魔王』のことをどうにかしようと思った。特にレイきゅんが何だかとても張り切っていて、即急に『魔王』のことを解決しようと思っていたのだ。
 そういうわけで私はレイきゅんと一緒に魔物退治に勤しみ、『魔王』を探していた。『魔王』を倒してしまおうと思っていたから。




 トアーノちゃんや他の攻略対象たちも一緒に魔物退治を行っていた。ちなみに『魔王』の存在もトアーノちゃんたちは知ったみたいだよ。『聖女』としてトーアノちゃんは『魔王』を倒すことを求められていて不安そうにしていた。凄く可愛かった。



 ちなみにそんなトアーノちゃんは、メインの攻略対象の第一王子とくっついてたよ。他の攻略対象がぐぎぎって顔していたけれど、まぁ、それはそれだよね。流石にトアーノちゃんも逆ハーにはしなかったみたいなんだよね。






「レイ、中々『魔王』見つからないねー」
「そうだね。はやく見つけてどうにかしたいんだけど。あの悪魔みたいに僕にちょっかいをかけてくる奴がいるのもややこしいから」
「フェルチアさんも、レイ君も……そう言いながら魔物を退治していて凄いわね。私なんて『聖女』と言われてもまだまだだわ」
「トアーノ、フェルチアとレイが異常なだけだ。落ち込まなくていい」




 ……トアーノちゃんと、第一王子はそんな会話を交わしていた。異常ってひどいなぁ。でも確かにレイきゅんもとても強くなってるものね。結構長く生きている私もちょっとヤバいって思う時あるぐらいになってるもの!!





 流石私のレイきゅんって感じだよねー。気を抜いたら模擬戦で負けそうになる時も出てきて、はー、レイきゅんかっこいいなって思って仕方がないの。





 私はそんなことを考えながらレイきゅんと一緒に『魔王』を探していたのだけど――、ある時『魔王』が居そうって場所にやってきたの。




 最初はレイきゅんと一緒にただ見て回っていただけだったの。でも急に世界が暗転して、私とレイきゅんは離れ離れにされてしまったわ。
 まったく、私とレイきゅんを突き放すなんて!! って思っていたら目の前に『魔王』がいたのよ。




「何だとは何よ。レディーに向かって失礼ね?」
「お前は異質だ」
「あらあら、レディーに失礼すぎるわよ。幾ら『魔王』だからといってもね!!」




 私はそんな言葉と共に、魔法を行使する。『魔王』を殺すための魔法である。『魔王』を消滅させることを考えた闇の魔法。
 『魔王』にその魔法が直撃したかと思ったが――、流石世界を滅ぼそうとした『魔王』というべきか。



 そして次の瞬間に私の耳に『魔王』の声が響いた。



「――この時代の者ではない。そんなものはこの時代には邪魔だ。――このままこの時代から消えるがいい」



 低く冷たい声。『魔王』が何かをしようとしたのが見えた。私はそれを避けようとして、避けられなかった。そしてその次の瞬間に、また私の視界は暗転した。














 意識が戻った時、自分自身が何処にいるのか全く分からなかった。




 真っ暗な空間。世界から隔離させたような闇の世界。その闇の世界に私はいる。何も聞こえない。何も見えない。身動きさえもとれない。隔離された世界。だけど辛うじて息は出来る。私は私がどうなっているか理解出来ない。
 『魔王』は空間系の魔法が得意なのだろうか。私が邪魔だと言っていた。私がこの時代の者ではないことを知っていた。




 私をどうにかするために準備をしていたのかもしれない。それに加えて、困ったことに口も上手く動かせない。無詠唱で魔法を使おうにしても、それは発動されない。
 これはヤバいかもしれない。




 ――私は『魔王』という存在を甘く見てしまっていた。世界を絶望に追いやった『魔王』を侮っていたのだと思う。その油断が私をこの状況に陥らせた。


 でも私はまだ死んでいない。
 私はレイきゅんの元にいて、レイきゅんを幸せにしなければならない。




 『魔王』だろうとも、私のレイきゅんを幸せにするという目標を邪魔させるわけにはいかない。




 こういう時は、レイきゅんのことを考えるのに限る。
 私の力の源は、レイきゅんへの愛だから。






 幼いころのレイきゅんは天使だった。こんな見ず知らずの怪しい幼女姿の私を見ても受け入れてくれていて、優しくてかっこいい、私の天使。
 ゲーム時代にレイきゅんの幼い頃の情報を知っていたけれども、私は実際にレイきゅんを見てもっともっとレイきゅんが愛おしく思った。
 大きくなってゲームの時代のレイきゅんは、ゲームよりも現実の方がうんと素敵だった。『魔王』を倒したらレイきゅんと一緒に話すって約束したんだ。





 ――私はレイきゅんと、話さなければならない。




 無理やり、私は魔力を練る。魔法の発動には、大きな力がいる。無理する必要がある。
 魔力を込める。大きな魔力を込めてどうにかしようとする。けれどその空間から抜け出せない。抜け出せた先にレイきゅんがいるかも分からない。




 ああ、でも――何人たりとも私のレイきゅんへの愛は邪魔させない!!






 そうしてまた魔力を練って、無理やり、魔法を行使した。身体が熱い。痛い。けれど、レイきゅんを幸せにしたいんだ。私は。



 そうしていれば――、空間が砕けた。それと同時に驚く事にレイきゅんの「フェルチア!!」という声が聞こえた。壊れたその場を見れば、レイきゅんがいた。
 いつもと様子が違う。焦った様子だ。ああ、空間の外から何か力が加えられたと思ったけれど、レイきゅんが壊すのを手伝ってくれたのだろうか。




「……ああ、レイきゅん」




 声がかれている。ふらふらする。熱かった身体の所々から、血が漏れている。
 ああ、無理をした結果だろうか。こんなにボロボロになるのは、はじめてだ。レイきゅんがその顔をゆがめている。心配そうに私に駆け寄ってくる。





「フェルチア!! 死ぬなよ!!」
「……うん、私、死なない」



 そう言いながらも私はレイきゅんに抱えられながら、意識を失った。


 ああ、レイきゅんに抱き留められているという状況なのに、気を失ってしまうなんてなんてもったいないことを!!

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