時空とか次元如きが私とレイきゅんの邪魔をしようなど……笑止!!

 私は激怒している。


 十歳になった私は、苛立ちのままに森の魔物を殴っている。これはただの憂さ晴らしである。私は許せなかった。信じられなかった。――心の底から今、神を憎んだ。




「レイきゅん、レイきゅん、レイきゅううううん!!」



 ああ、レイきゅん、レイきゅん、レイきゅん。




 魔物を殴る。
 魔法を使う。
 死体が周りに転がる。



「……あああああああ、レイきゅん!!」



 何故私が激怒しているかというと、信じられない事実を知ったからだ。


 ――この世界は、レイきゅんがいた私の大好きな乙女ゲームの世界だった。それは喜ばしいことっだった。


 だけれど、悲しいことにこの世界でレイきゅんはとっくに死んでいた。



「……聖女を裏切り、人類の敵となり、レイきゅんが討伐されたなんて!! なんということ!! レイきゅん、レイきゅん!!」




 そうレイきゅんはバッドエンドルートに行っていたのだ。そしてレイきゅんは聖女たちによって討伐されて、めでたしめでたしって違う!! レイきゅんがいないのにめでたしのわけがない。



 レイきゅん、つらかったよね。悲しかったよね。ああ、レイきゅん。同じ時代に生まれていたのならば私は絶対にこの力を持ってしてレイきゅんを助けたのに。レイきゅんのために何だって投げ出したのに。寧ろ私だけがレイきゅんの傍にいて、私だけをレイきゅんが見てくれていたら、いやもうそれだけで幸せじゃない? レイきゅんはとても素敵で優しくて可愛くて最高なんだもの!!



 レイきゅんが討伐されて、二百年。その世界ではレイきゅんは悪役としてしか描かれない。劇などで描かれていてもちらっと出てくるだけらしい。私の愛おしいレイきゅんが悪役として幸せにならずに死んでしまったなんて!!
 レイきゅんと折角同じ世界にいるというのに、レイきゅんに出会うことが出来ずに、レイきゅんが不幸になって死んでしまった世界だなんて!! 生きている意味が何処にあるのだろうか。





「レイきゅん、レイきゅん!!」


 目を閉じれば、今でも前世でスチルで散々見た愛おしいレイきゅんのことを思い浮かべる。レイきゅん、かっこいい。ああ、愛おしい。


 三次元にいきている私と、二次元の世界のキャラクターのレイきゅん。


 出会えることなどなかった私たちが同じ世界にいる……!! というのに、どうして!! どうしてなの!! レイきゅんを幸せにしないといけないのに。


 転生をさせられるのは嬉しかったけれど、レイきゅんと同じ世界だというのならばどうしてレイきゅんと同じ世界じゃなかったの!!


 ――私の周りには魔物の死体が転がっている。


 たった十歳の私が、これだけ魔物を倒せるのは普通ではない。


 私がこれだけ強くなれたのは、私が強くなろうと頑張ってきたからである。RPGが大好きなので、やりこんだ結果だ。


 もしレイきゅんが同じ世界に居たら――と願って私はこれだけ強くなっていたのだけど、レイきゅんがいない。



「ああああああ、レイきゅううううううん」


 レイきゅんがいない世界で、私はどんなふうにいきて行けばいいのだろうかと心の底から絶望していた。

 魔物の死体の上で泣きじゃくる私は、はたからみたら大層狂っているように見えただろう。












 それからの日々は正直生きる屍みたいになっていた。



 お母さんもお父さんも、商家で働いていた者たちも心配していた。私はレイきゅんがこの世界にいないという事実を知るまでそれはもう元気で――寧ろ元気すぎて心配されていたぐらいなのだ。


 そんな私が大人しく、生気のない瞳をしているのでお母さんたちが心配するのも当然だろう。
 私はレイきゅんがこの世界で既に討伐されてしまっている事実に悲しくて苦しくて、レイきゅんを思って泣いていた。


「……フェルチアちゃん」
「……なぁに?」
「何をそんなに悲しんでるの?」


 そう近所のお姉さんから問いかけられた。
 そのお姉さんは私にとって親しいお姉さんで、ひそかに憧れて居た綺麗な人だ。


「大好きな人に会えないの」
「会えない? 遠くにいるの?」
「うん」


 会えない。――もう死んでいる。二百年も前に。そんな大好きなレイきゅんにもう会えない。
 私は口にしただけで泣き出しそうになった。


 レイきゅんレイきゅん、苦しかったね。悲しかったね。私がレイきゅんの傍にずっといたのならば、レイきゅんを何からも守って、レイきゅんのためだけにいきていたのに!! レイきゅんが大好きで仕方がないのに。ああ、レイきゅんレイきゅんレイきゅん!!


「会えたいなら会いに行けばいいんじゃない?」
「会いたいなら会いに行けばいい?」
「そうよ。どれだけ遠くにいるかは分からないけれど、やろうと思えば人はなんだって出来るものよ」




 きっとお姉さんは私が会いたい人がもう死んでしまっているレイきゅんだとは分かっていなかっただろう。だけどその言葉はストンと私の心に響いた。



 そうだ。会いたいなら会いにいけばいいのだ。


 レイきゅんが死んでいるからなんだ。
 二百年前でもうレイきゅんがいないからなんだ。
 ――私が、力をつけて、レイきゅんに会いに行けばいい。



「ありがとう!! 私、レイきゅんに会いにいく!!」


 ――私は何が何でもレイきゅんに会いにいく。そしてレイきゅんを幸せにする。


 決意した私は「恋に生きて恋のために死にます!!」とお母様たちに伝えて、慌てられてしまうのは別の話である。
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