奥手な二人の両片思い
1時間後──。



「かんせ~い!」



ふぅ、やっと終わった。

なんかめちゃめちゃ濃くなっちゃったけど、これがゾンビメイクのベースってことで!



「そうだ! 写真撮っとこう!」



記録用に自撮り写真を1枚。
上川くんに自撮りのコツを聞いておけば良かったな。



「……これでよし!」



何枚か撮って、次はゾンビメイクをするための赤い色のアイシャドウを手に取った。



「これでまずは目の周りを出血させて……っと」



コンコンコン。



「菫~、ご飯できたって~」

「あ、は~い。今行く~」



しばらくアイメイクと格闘していると、父の呼ぶ声が聞こえた。

一旦手を止めてリビングへ。



「今日は何~?」



ルンルン気分でリビングのドアを開けた瞬間、両親の顔が凍りついた。



「ん? どうし……」

「ギャーーーーッ‼ 化け物ーー‼」

「す、菫! まずはその顔どうにかしてきなさい!」

「えっ⁉ はっ、はいぃぃ……っ!」



父の悲鳴と母の怒った声にハッと気づき、急いで洗面所に駆け込んだ。

ドアを閉める前に見た母の顔は、今まで見たゾンビメイクをした人達の顔よりも遥かに恐ろしかった。
< 56 / 144 >

この作品をシェア

pagetop