俺のカノジョは
一般病棟も集中治療室も夜は落ち着いていれば、こんな会話もある。
ICUは特に、だな。

看護師の夜の会話内容なんて……白衣の天使のイメージが強いやつには刺激が強すぎるだろうな。

男の俺でも……ちょっと引くことがある。
自分の彼女もこの会話に参加しているのかと、恐ろしくなったこともあったな……。



「あ、そうだ聞いてくださいよ。私、昨日誕生日だったんですよ!」
「へ? あ、そうなんだ。おめでとう」

まだ隣に立っていた高橋さんが話を続ける。

耳だけは傾けながらカルテ入力をした。


「そしたらですね、今日ハルちゃんがケーキ焼いて来てくれたんです!」
「へぇ~」


彼女が言う“ハルちゃん”とは、春香のことだ。

春香はICU内では先輩たちからハルちゃんと呼ばれている。



お菓子作りが好きな春香は、作ってもひとりでは食べきれないからと病棟内のスタッフへあげているようで。

それが、男女問わず人気なのだ。

高橋さんもその一人で、春香の作ったパウンドケーキが好きらしい。


「ほんとまめですよ、ハルちゃん。私が嫁にしたいわ」
「本人の同意が得られるといいね」
「他人の誕生日よく覚えてるなぁーって感心したんですよ。本人はそう言うのは覚えるの得意だと言ってましたけど」
「すごいねえ」


話を合わせているが、これまでのことを思い返すと、確かにそうだと言える。

本当に些細なことも覚えてる。

俺がふいに言ったことや、食べたいと話していたスイーツなども覚えていてよく『これ好きだって言ってたから~』と買ってきてくれることが多い。


記憶力がいいんだろうけど。

こんなことまで覚えてる?と不思議になる。



まめなら、もうちょっと俺にかまってくれてもいいんだけどなぁ……なんて思いながら、その夜は更けていった。
< 12 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop