例えば世界が逆さまになっても
『かっ……、かっこいいなんて、そんなこと……、絶対、そんなこと、ない、から。そんなこと……』
口下手ながらも全力で否定した俺だった。
それでも彼女は、『そんなことないよ』と、否定を否定し返してきたのだ。
『あの人達が猫を虐めてたの、わたしも気付いてたんだ。でも、やっぱり怖くて注意できなかったの』
しゅんと沈んだ調子で打ち明けた彼女に、俺は慌てて首を振った。
『そんなの、俺だって同じだから。俺が言ったところで、あいつらは絶対にやめるとは思わなかったから。俺みたいな弱そうなやつの言う事なんて、聞くわけないって思ったし……』
我ながら、ネガティブが過ぎる発言だと思う。でも事実だ。
ところが彼女は、怪訝な顔をするわけでも、後ろ向きな発言を非難するわけでもなく、シャツを拭く手を止めると、ちょっと不思議そうに首を傾げて見上げてきたのだ。
『だったら、尚更かっこいいと思うけど?』
『え?』
『だって、もしあなたが本当にそう思ってたなら、それにもかかわらずあの人達に注意しにいったなんて、かっこよすぎるじゃない』
『……っ』
その時の彼女の満面の笑みは、俺が知ってる誰よりも明るくて、優しくて、キラキラしていて、可愛くて、柔らかくて、でもピッと芯があって、だけど穏やかな、とにかく特別眩しいものだった。
だから俺は、分かりやすく赤面してしまい、何て返事したらいいのか浮かばず、俯いてしまった。
彼女はそんな俺を気にせず、ハンカチを水道で洗いながら会話を続けてきた。
『どうせ無理って思ってても頑張ったんだから、あなたはすごいのよ』