例えば世界が逆さまになっても
さっきと似たようなことを口にした彼女だったけれど、そのニュアンスは、少しばかり違っているようにも感じた。まるで、彼女自身に向かって言ってるように聞こえたのだ。
俺の気のせいかとも思ったが、なんだか妙に引っ掛かって、俺はつい訊き返していた。
『でも……きみ、きみだって、同じだろ?俺を助けてくれたんだから……。だったら、きみだってすごいよ……』
結果的には、彼女だって、怖いと感じたあいつらを追いやったわけなのだから。
思ったままのことを言ったつもりだけど、彼女は『違うわ』と、なぜか苦笑を見せたのだった。
『だってわたしは……』
何かを言いかけた彼女は、ふいに話を止めると、きゅっと水道の栓を閉めた。
そしてハンカチを絞り、パンッと音たてて伸ばした。
『……ごめんなさい、そうじゃないの。…ちょっと、自分のことと重ね合わせちゃって……』
『自分のこと?』
俺は無意識のうちにそう返していたけれど、もしかしたらそれは、話を催促するように受け取られてしまったのかもしれない。
彼女は濡れたハンカチを折りたたみながら、少しの思案ののち、ゆっくりと、自分のことを話してくれたのだった。