例えば世界が逆さまになっても




彼女の苦笑の原因は、進路のことだったようだ。
ずっと目標にしていた大学があったのだが、どんなに頑張っても自分の成績では届かないところにあるらしい。
受験まではまだ時間があるものの、面談の度に教師からは厳しいことを言われ、自分でもだんだんと ”どうせ無理なんだ” と諦めが濃くなってきていたという。
だから、さっき俺が言ったことが、すごく心に刺さったのだと打ち明けた。

『どうせ言うこときくわけないと思いながらもあの人達にちゃんと注意したあなたが、わたしにはすごくかっこよく見える。……なんだか、今日こうしてあなたに逢えたのは、神様が ”まだ諦めるなよー” って言ってくれてるのかもしれないね』

話の終わりを、おどけてそう締めくくった彼女は、どこか吹っ切れた雰囲気がした。

『それは言い過ぎだよ』

『全然言い過ぎなんかじゃないわよ。だって、わたしはまた明日から頑張ろう!って思えたもの。どうせ無理だ……って諦めかけてた心に、頑張る力をくれた。あなたが、見るからに腕力差がありそうなあの人達に歯向かっていく姿は、わたしも頑張らなきゃって気持ちにさせてくれたのよ?』

『そんな……』

俺は、そんな大層なものじゃないのに…と思いつつも、彼女の役に立てたのならそれでいいかと、曖昧に受け入れたのだった。


やがてシャツが乾ききらないうちに、彼女の予備校の時間が迫ってきた。

『ねえ、名前教えてくれない?』

別れる前に、彼女が気負いなくそう尋ねてきた。









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