例えば世界が逆さまになっても
さらに幸運なことに、三年になった途端、嘘みたいに身長が伸びはじめてくれた。
これは、性格以上に努力では叶えられないことと思っていたので、毎晩のように苦しむ成長痛にも、喜んで耐えてみせた。
並行して、受験勉強にも手を抜くことはなかった。
自分改革に精を出すあまり、油断して、志望大学に落ちてしまっては意味がない。
俺は、彼女と志望大学が同じであることに、一縷の望みを持っていたのだから。
そんな、受験シーズンが差し迫った頃のことだった。
偶然成瀬と帰りが一緒になり、声をかけられたのである。
同じクラスの成瀬とは出席番号が前後だったので普通に会話する間柄だったし、それ自体はおかしな出来事でもない。
ただ、なぜだか成瀬は、それまでとは少し態度が違っているようにも感じた。
妙な違和感というか虫の知らせとでも言うべきか、俺は、一年以上前に吐いた嘘がいよいよばれたのかと身構えた。
ところが、そうではなかったのだ。
『南條さ、三年になってからずいぶん変わったよね』
成瀬は感心しきりといった言い草で告げた。
『……そうかな』
『身長がすごく伸びたっていうのもあるけど、外見だけじゃなくて、雰囲気がさ、明るくなった』
『……成瀬ほどじゃないと思うけど』
俺が言い返すと、『ほら、それ!』と高らかに笑う。
『昔の南條なら、そんな返し方はしなかったからね。クラスの連中もみんな言ってるよ?南條が中身も外見もイケメン化してるって』
相変わらず笑ってる成瀬だが、揶揄するものではなさそうだ。
俺は少し、…いや、かなり気恥ずかしくなってしまった。