例えば世界が逆さまになっても
以前の俺を知ってるクラスメイトから今の自分がどう思われているのかなんて、それまで知る機会がなかったからだ。
ほぼ身内感覚がある奴らだから、どことなく、こそばゆいものがあった。
『イケメンなんて、そんなこと、ないから…』
照れ臭さもあり、つい俯きかけた俺を、成瀬は引き止めた。
『ああ、ストップストップ。下向いたら南條の顔が見えないよ。今まではその方が南條がしゃべりやすいのかと思ってたから、俺達も何も言わなかったけどさ、南條、今自分で変わろうと頑張ってるんだろ?だったら、今日も俯かずにいようよ』
顔を上げると、成瀬の整った顔が俺を見据えていた。
『それに、髪を切って顔を上げるようにしたら、南條のイケメンに気付いた女子も多いんだよ?』
『女子?』
『ああ。ほら、この前文化祭で他校生がうちの学校に来ただろ?その時、お前の名前をよく訊かれたんだよ』
そう言えば、他校生の女の子によく声をかけられた、ような気はするな。
そんなことを思い出している俺の真横で、成瀬は呆れ声をあげた。
『やっぱり気付いてなかったか』
『何を?』
『自分が密かに女子にモテてるってことに』
『なっ……、そんなこと、あるわけない。例えば世界が逆さまになったとしても、絶対にないから』
『あるんだよ。俺なんか、名前だけじゃなくお前のこと色々訊かれたんだからな』
からかい口調、クレーム口調で言われても、どうすることもできない。
ここは謝っておくべきだろうか。
けれど俺が詫びるよりも先に、成瀬がまた質問を投げかけてきたのだった。
『なあ、もしかして、好きな子でもできたのか?』