明日、雪うさぎが泣いたら
それから後も、特に変わった様子もなく。
恭一郎様本人はもちろん、邸の人たちに監視されることもなかった。
こんなことを言うと、また「お望みなら」と言われてしまいそうだ。
「どうなることかと思ったけれど、一安心ね。でも、小雪は気を抜いては駄目よ」
安心したと言いながら続けられた言葉の矛盾に首を傾げると、長閑にガシッと両肩を掴まれた。
「いい? 何かあれば、大声を出すのよ。たとえお咎めを受けようと、私が助けに行くわ」
「……大丈夫じゃないかな……」
そう思うのも失礼だと言われそうだが、まさかこの場で分かったと即答するのも気が引けた。
「もう、そんなこと言って。自分を安く見積もっては駄目。小雪は、かなり風変わりなだけのれっきとした美姫なんですからね」
「あの……それ、高く見積もってくれてるつもり? 」
逆に、評価をとても下げられている気がするのだけれども。
ガクンガクンと揺さぶられる私を呆れたように眺め、かなり前から後ろに立っていた邸の主が重たい口を開いた。
「……今、ここに本人がいるのだがな。しかも、一応は一緒に住まう夫だ」
《夫だから許されるというものではありませんよ。一応は私も下がりますが、私の可愛い姫に何かあれば化けて出ますからね。覚悟しておきなさい、医師殿》
今下がっているのは、どちらかというと恭一郎様なのだが。
細い目をますます細め、雪狐が宣言した。
「誰がいつ、獣のものになった。第一、お前は既に化けて出ている状態だろう。それ以上どう化ける気だ、狐。狸にでもなるか」
至極真面目な顔をして言い放つから、笑いを堪えきれない。
二人ともずるい。
二人がすんでのところで我慢するから、私の吹き出す音だけが響いてじろりと睨まれてしまった。