明日、雪うさぎが泣いたら
「あの後戻り拾って……燃やした。それも想像どおりなのだろう? 」
「……はい」
なのに、ちっとも痛くないから困る。
だって、本当に腹が立たないのだもの。
「怒らないのか? 」
でも、そんな私は恭一郎様の予想に反していたらしい。
「だって、その方が納得なんです。むしろ、大切に仕舞ってくださっていたら、その方がびっくりしちゃ……痛っ」
さっきよりは少し強く叩かれて思わず声が出たものの、本当はやっぱり痛くない。
「お前はもう……。何でそう、私に対する警戒心が長く続かないのだ。雪遊びをしたくらいで気を許していると、今に籠に入れられるぞ。兎の君」
「…………そ、そんな恥ずかしい呼び方をしていいのは雪狐だけですよ。……っていうか、よく真顔でいられますね」
雪狐を真似た呼び方に、急にしどろもどろになる。
雪狐は、きつねさんだから許されるのだ。
人間の男性となると、生憎大雪と呼ばれる方がまだ耐性がある。
「なぜ? 」
なぜって、だからそれは雪狐は可愛いもふもふだからだ。
恭一郎様は人間で男の人で、更には――ずっと憧れていた人であり、兄でなくなったと思ったら夫となってしまった。
私にとっては、可愛いもふもふと会話できることよりも、その方が比べものにならないくらい適応できない状況で――って、何を混乱しているのだろう、私は。
「……もう! からかわないでください!! 」
そこまで一気に思考を巡らせた後、反応がないことに気づいてそっと見上げてみると、ややあって笑い声が聞こえてきた。
「本心だ。微々たるものでも、お前の気持ちに変化があったようで何よりだ。今夜は、お互いここまでにしておくか。それほどの情報も与えていないしな」
意地悪をして満足したというようにも、どこかほっとしたとも聞こえる。
それほどの情報――つまり、もっと出来事の核心に触れられるのを恐れていた、とも。