明日、雪うさぎが泣いたら


「あ、そう仰るのなら、もう少しだけ。熱のせいか、夢の中でも私の時間軸は曖昧なんてす。それにあの、兄様だったあなたは、どうしてそんなに私を……」


突然できた妹を、どうしてそんなにも大切にしてくれたのだろう。
まさか、あんなに小さかった私を一目で恋愛対象にしていたはずもない。
それがただの責任感や優しさだというなら、聖人とは言わずとも、彼は善人だとしか言えない。


「駄目だ。今夜はここでおしまい。初めてここでお前と過ごすのに、兄様の話はしたくないしな。第一、お前、忘れてないか。私から情報を得るには、見返りを求められるのだぞ」


先程小突いたばかりの額を、今度はそっと手のひらで覆った。
今は熱なんてないのに、まるであの時を再現するようにそうっと。


「恭一郎さま……? 」


その仕草に、再び胸騒ぎがした。
それに熱いのは私のおでこではなく、恭一郎様の手の方だ。


「もしかして、お加減が悪いんじゃ……少し、熱っぽい気がします」


逃げようとした手も、すぐに捕まえることができた。
私が来るからと、無理をさせたのだろう。
ううん、元はと言えば、あの雪遊びのせいだ。
大雪と呼ばれる私は平気でも、医師とはいえ普通の人間である恭一郎様には寒すぎて風邪を引いても当然だ。


「大丈夫だ」


どうして、もっと早く気がつかなかったのだろう。
具合が悪いなか、嫌がっていた話に付き合わせたりして。


「大丈夫だと言っている。それに」


捕らえたのとは逆の腕に抱かれ、その勢いのままに胸へと寄せられる。


「お前は忘れるのが早いと、何度言わせる。もしも体調が悪いのだとしても、私はそれを利用するだろうな」


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