明日、雪うさぎが泣いたら
トクトクと着物越しに聴こえる心音に安堵の息が漏れ、そのこと自体当たり前だと思えない自分に余計に不安になった。
「大雪と共寝すると、凍ってしまうかもしれませんよ」
だって、そうでしょう?
この人は今、ここにいる。
兄だと紹介されたあの日から、ずっと。
もちろん、この先も変わらずに。
それなのになぜ、何を怯えることがあるだろう。
「あの小雪が、そんなことを言うようになるとはな。お前の兄だった私には、結構な衝撃だ」
「……私だって、兄様には言えないことだってありますよーだ」
私だって、大人になったのだ。
そりゃあ確かに、いつも近くにいれば分からないほど微々たる変化だったのかもしれないし、それらしい経験談だって皆無だけれども。
「なるほど、それもそうか。なら……」
ドクンと何とも生々しい音に、無意識にくっつけていた耳をその胸から離そうとした。
「それでもいいと言ったら? 」
――が、上手くいかない。
私が何をしていたのか、何を思っていたのか。
そんなのお見通しだと言うように、首筋から顎の線を辿り、耳へと移る。
「このまま一緒にいられるなら、それでもいい。そう言ったらどうする? 」
まるで、そうして聴いていろと言われたみたいだ。
男性の――恭一郎様の思考はよく分からない。
雪女の話をされて、なぜそんな気分になったのかは謎だけれど、ともかく気づいた私が一瞬にして真っ赤になったのを逃すまいとしていることだけは伝わる。
「まあ、それはわりと嘘だ。何もできないまま凍らされるなど、不憫すぎる。どうせ凍らせるつもりなら、せめて一夜は許してからにしてくれ」
「……そんなこと言うと、おじいちゃんになってもそんな日は来ないかもしれませんよ」
口にしていい冗談と、悪い冗談がある。
でも、もしかしたら――それこそ、本心だったりするのだろうか。