明日、雪うさぎが泣いたら
「……そこまで待っていたら、できることもできなくなっている。お前、まさかそれを狙っているのではないだろうな」
今度はすぐに分かる。
その渋い顔は、本気で反応に困っていると。
「とにかく、早く治してください。寒くないですか? ご気分は? 」
とっくに緩んでいた腕から脱け出して、そっとこめかみの汗を拭う。
「心配してくれるのは嬉しいが。今は目線を合わせない方がいい。一彰いわく、私はお前が絡むとまともではない。ただ、お前に対して我慢強いだけだ。……とはいえ、今は熱っぽいからな」
そう言われて、改めて思う。ああ、私は今、妹ではないのだ――と。
そういえば、妹として側で過ごしてきた中で、こうして目の高さが合ったことは一度もなかった。
「もう。そんなこと言ってないで、潔く横になってください」
元・妹の部屋ではないことが、多少気を楽にしているのだろうか。
それとも、単に熱のせいかもしれない。
頑固だが真面目な雰囲気が和らいで……いつもより砕けているのに、なぜだか更に頑固なところが強調されている。
「共寝が駄目なら、添い寝でもいい」
「……一緒ですよね、それ」
これまで悩まされ、折れてきた分だと言わんばかりに言うことを聞いてくれない。
「違うが、一緒にしてもいいぞ」
「~~恭一郎様……!! 」
大声を出してみようか。
きっと、長閑と雪狐が駆けつけてくれるに違いない。
「……まったく。熱があって良かったのか悪かったのか」
「……悪いに決まっています。大人しく寝てくださ……」
なのに、出てきたのは小声ばかりで。
すぐ側のとろんとした瞳に釣られて、私の瞼まで重くなってくる。
「お前こそ、大人しく寝てくれ。正直、体温より他の熱の方が辛いというのに。……今夜は夢を見ないといいな」
「おやすみ」とは言ってくれないのが、何だかとても切ない。
ちっとも眠くないのに、どうして反射的に目が閉じようとするのだろう。
そんな私の様子に笑って、再び私の頭を自分の胸へと戻した。
(……それは無理……かな)
「……恭一郎様こそ。恭一郎様でも、そんなこと言うんですね」
話を逸らしたのは、そう確信していたからだ。――今夜も夢を見ると。
「私だって、妹には言えないことがあるからな」
私の台詞を真似しながら、なおも心臓の音を確めさせる。
今宵も意識を手離せば、また夢を見るだろう。
ただそれが、いつどこで誰と過ごした時のものなのか。
そんな疑問が浮かんで少し怖くて、でも、やっぱりどうしても知りたい。
緊張しているのだと勘違いしたのか、頭を撫でられる。
その心地よさと、重なりなおも速まる心臓の音――それに罪悪感で、すぐには寝つけそうにもなかった。