明日、雪うさぎが泣いたら
「兄様!」
子犬のように寄ろうとする私に困り顔をして、何か失礼なことを呟いた親友の頭をかるく扇で小突く。
「おはよう。今朝も目覚めが遅かったと聞いたが。……またあの夢か?気分はどうだ」
「むかつくけど、一彰の言う通り元気です。ただ同じような夢を見るというだけで、その、別に悪いものでは」
別に悪夢じゃない。
むしろ懐かしくて、どこかほっとすらするのだ。
でも、こう言うと毎回兄様はいい顔をしない。
「だが、昔と比べて夢を見る頻度が上がっている。お前が妙齢になったのを見計らって、またお前を拐かすつもりかもしれない。お前が近くに来るように呼び寄せているのかもしれぬ。それが何か悪い気をもったモノではないと、なぜ言える?」
「はあ。だとしたら、随分物好きな妖怪もいたものだ。娶ってもらえばいいじゃないか。最後の好機かもしれないぞ」
この口は、私を見ると無礼なことしか言えないのか。
黙っていれば、それなりに美男であるところも腹立たしい。
口を開いていたって、私相手でなければ甘く優しいところも。