天魔の華は夜に咲く
馬車に乗り、城下街へと向かった。

馬車から降り見渡すと、レンガで造られたにぎやかな商店街が目の前に広がっていた。

露店も沢山並んでいる。


「街には来た事あるのか?」

「うん。アルヴァンさんが案内してくれたよ」

「アルヴァンか。あいつも災難だったな」

「・・うん」


_つい、昨日の事・・なんだよね。あの後アルヴァンさんに会ってないけど・・大丈夫なのかな。今頃どうしてるんだろう・・。


心配そうに俯いたセンジュの肩に手をそっと置いた。


「気に病むな。あいつだって誰もが認める四大魔将なんだから。もうきっと気持ち切り替えてるよ」

「・・・うん」


一気に妻と愛娘を失くして平気なハズはないだろう。

しかしずっと塞ぎこんでいる様な者ではないという事をセヴィオはわかっている。

アルヴァンは自分よりもずっと大人だという事も。


「しっかし、これだけ立て続けに事件が続くと嫌になるな」

「そうだね」

「俺の領土の小競り合いから始まって、フォルノスの毒殺まで・・まず間違いなく裏のヤツらが動いてるだろうな」

「うん」

「でも俺達だって指くわえて見てるだけじゃねえ。しっかりと終わらせてやる。安心しろ」


真っ直ぐに通る声でセヴィオはセンジュを安堵させた。


「おっと!」

話しながら道を歩いていると、建物の隙間から3人程魔族が出てきてセンジュとセヴィオの前に立ちはだかった。

同じくらいの年齢の少年たちだ。

お互いに睨みを利かせている。


_何!?喧嘩が始まりそうな雰囲気なんだけど!?


センジュに緊張が走った。


「・・・」

「・・・」


ジッと睨み合って暫く動かなかったが、耐えられなくなったのは3人の方だった。

突然笑い出したのだ。

「クク、ハハ・・悪い悪い」

「ああ、驚いたな」

「久しぶり!セヴィオー!!」


どうやら睨み合いは冗談だったらしい。

3人はセヴィオを囲んで嬉しそうにしている。

センジュは怯えつつもキョトンと目を丸くするしかなかった。

セヴィオはすぐに輪の中にセンジュを入れた。


「こいつらは俺のダチ。暫く会ってなかったけど」


「セヴィオが四大魔将様に選ばれちまったからな。逢えなくなったのはセヴィオのせい」


「んだよ。しょうがねえだろ天才なんだから」


「自分で言うんじゃねえよ」

金髪の少年とセヴィオは楽しそうに笑った。


「てかその子、セヴィオの彼女?」


ドキン


「え・・えっと・・ええと」


_なんて言ったらいいの!?


慌てふためいているとセヴィオがセンジュの頭をぽんと撫でた。


「そうだよ」

「え・・」


_ちょ、セヴィオさん!?どゆこと!?


「へえ!珍しいなー。お前女に興味あったのかよ」

「どういう意味だ」

「学校にいた時は真面目ぶって女と遊ぶの嫌がってたじゃん」

「ちがう。タイプが居なかっただけ」

金髪の少年は吟味する様にセンジュを上から下まで確認した。


「じゃこの子はタイプってワケ?あ、俺はゼンていうんだ。セヴィオとはガキの頃からの腐れ縁」

「・・センジュです」

「センジュね。変わった名前・・てか、耳長くないな。人間?」

「あ、いえ・・ええと」


と口を開こうとした瞬間セヴィオに遮られた。

「こいつ捨て子だったらしいんだよ。あんまり詮索するな、可哀そうだから」


_はい!?突然の捨て子設定!?


無茶ぶりに冷や汗が噴き出そうになるセンジュだ。


「え、悪い。そうだったか。まあ魔界に居るって事は魔族なんだろ?よろしくな」

「あ・・はい」

「つか、顔可愛いしさ。セヴィオじゃなくて俺でもよくない?今から乗り換えない?」

「てめ、ふざけんなゼン!」

「ハハ、ムキになってるっつーことはマジなんだな~ウケる」


傍から見たら少年たちがじゃれ合っている様にしか見えない。

周りにいた大人達は気にも留めていない様だった。

センジュが魔王の娘だという事は一般魔族には内密だ。

裏四大魔将の存在がある限り、センジュに危険が及ぶ可能性が上がるからだ。

例え昔からの友人だろうと安易に教えられることではない。


「つーかさ、今デート中なわけ?」

「あ?そうだよ」

「ええー!ここで会ったのも縁だし、久しぶりに話さねえ?ちょっとでいいからさ」

「はあ?」

「もう二度と会えないかもしれねえだろ~」


セヴィオは迷った。

2年程前までは毎日の様に苦楽を共にしてきた仲間との再会だ。

積もる話はある。

しかし、今はセンジュの護衛の途中だ。

ちらりとセンジュの顔を覗くと、センジュはコクリと頷いた。

「久しぶりなら、いいんじゃない?折角なんだし」

「いいのかよ?」

「うん、それにセヴィオの事も教えてもらえそうだし」

「うっしゃ!ノリいいね!センジュ!」

一番喜んでいるのはやはりゼンだった。


「仕方ねえな。ま、お前らだったらいいか。ちょっとだけだからな」

「やった~!おごってくれよ四大魔将様~」

「おい。まさかそれが目当てじゃねえだろうな」

「やった~!行こうぜセヴィオ!」

他の2人、コーマとクロウも跳ね上がって喜んでいる。

センジュにとってその光景は微笑ましかった。

まるで自分の通っていた学校のクラスメイトを思い出させる状況だったからだ。


「楽しそうでいいね」

「まあ、な」


少し照れくさそうにしながらセヴィオは素直に喜んだ。

信頼していた友達との再会は純粋に嬉しかった。
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