魔界の華は夜に咲く
それから
フォルノスの執務室前に到着したセンジュだ。


_な、なんか緊張する・・。


コンコン
震える手でセンジュはフォルノスの執務室のドアをノックした。


「入れ」

「あの、私・・なんだけど」


部屋に入ったセンジュの目の前に飛び込んできた光景。
フォルノスの前に土下座をする部下達の姿だった。
3人ほどフォルノスの前で首を垂れていた。
フォルノス直属の部下で、管理職の面々だ。


「な、何やって・・」

「お前か、何の用だ。次から次へと忙しいというのに」

「体調はどうかなって思って・・」

「そんなのすぐに治った。わかったのなら出ていけ」


_うわ・・いつものフォルノスだ。ムカムカする!人の心配を無下にして!!


冷たい声であしらわれ、センジュは怒りをあらわにしながら質問した。


「何やってるの!?」

「こいつらが話をしたいと言ってきただけだ。俺は聞くも気もないと言っているのに。一向に出ていこうとしない。いっそ手打ちにしようかと考えていた」

「手打ち!?」


部下達の顔は青ざめている。体もカタカタと震えている様だった。
泣いている者もいる。


「お願いでございます。どうか、解雇のお取り返しを!!」

「我らはフォルノス様をお慕いしております!どうか!」

「十数年もお仕えしてきたのに、これはあんまりでございます」


スラリ。
その言葉を皮切りにフォルノスは腰に差していた剣を抜いた。
怯える部下達の前にセンジュは立った。


「ひいッ・・」

「ちょ、止めて!何やってるの!?」

「煩い。口を出すな。お前には関係ない。まったく毎度毎度迷惑な女だな」

「目の前でそういう事するからでしょう!」


フォルノスの眉間のしわが更に歪んだ。


「お前に止める権利はない。それとも何だ?今更王女だからとでも言うか?」

「そ、そうだよ!!理由を教えてよ!」

「別に大した事じゃない。部下を全員新しくしようとしただけだ」

「え!?どうして」

「言わなくてもわかるだろうが。俺は毒殺されそうになった。いつもの食卓でな」

「あ・・」

「エレヴォスの事情聴取の様子も見ていたがなかなか尻尾を出さなかった。だったらいっそ全部入れ替えた方がいいだろう」

「でも、フォルノスを慕ってる人もこうやっているじゃない」

「どうやって信用しろと?また明日も毒を仕込む可能性があるだろう」

「っ・・」


フォルノスは自分を守る為に部下を全員解雇したのだった。
それに納得出来ずに部下達は懇願している状況だ。


「フォルノスは・・部下の人達の事をどう思ってたの?信頼してた?」

「・・・さあな。もしかしたら恐怖だけが信頼の証だったのかもしれんな」

「その方法が間違ってるとは思わないの?」

「何?」


センジュの言葉にピクリと眉が上がった。
癇に障ったというヤツだ。


「来たばかりの人間が・・わかりきったような口を利く」

「この人達はこんなにお願いしてるじゃない、私には嘘に見えない」

「はぁ。話にならん。出ていけ。全員。俺は覆さない」


フォルノスは呆れながら剣をしまい、背中を見せた。
部下達は必死に訴えた。


「そんな!フォルノス様!後生です!職を失えば我々は・・家族は一体どうなるのですか!?」

「・・・知らんそんなもの。他に行け」

「そんな・・そんな・・今までこんなにお慕いして来たのです!!」

「我々は誓ってフォルノス様に危害を加えようとは致しません!」

「失せろ」

「そんなフォルノス様・・」


フォルノスの冷酷な言葉に部下達は言葉を失った。
絶望すら感じているだろう。






パンッ!!


しんと静まり返った部屋に音がした。
部下達が見上げるとセンジュの平手がフォルノスの頬を叩いた後だった。
愕然と見つめた。この後どうなるか恐怖に苛まれた。相手は魔界一冷酷だと言われている男だ。
フォルノスの左頬がじんわりと真っ赤に腫れた。



「・・貴様・・」

「後の事を何も考えてないの?貴方にはひとかけらも優しさがないの?」


センジュは悔しい気持ちでいっぱいいになった。


「よくそんな冷たい言葉を簡単に口に出せるね!人の上に立つ者が!そんなんじゃ誰もついて来ないに決まってる!」

「・・・魔王の娘だからと言って・・俺は容赦せんぞ」

「だから何!?私にはそんな言葉ひとつも効果ないんですけど!!うぐっ・・う・・ぁ」


ぐいっ

フォルノスの手がセンジュの首を掴んだ。


「こんな細い首、軽くつぶせるぞ」

「・・やって・・みれば・・っ」


ググ・・とフォルノスが指に力を籠めると一気に息が出来なくなった。


「ひいっ!おやめくださいフォルノス様!その方は魔王の_」

「わかっている。お前らも一歩でも動いてみろ。瞬殺してやる」

「ひっ・・」


フォルノスの瞳が銀に光った。


「・・っ・・っ・・」

「苦しいか?不満があるなら声を上げてみろ」

「っ・・っ・・」


_息・・本当に出来ない。痛い・・苦しい・・


センジュは足をバタバタともがいた。
フォルノスの手を外そうと試みるがびくともしない。


「あの方にはお前は事故にあったとでも言っておく。なんの力も持たない人間が、単純な事故にあって死ぬ。ただそれだけだ」


_本気だ・・。私を本気で憎んでる目・・。


「・・・ノス・・」

「なんだ?命乞いか?」

「・・・おねが・・助け・・・」

「助けてください、だろ?」


息が出来ずに体がびくびくと痙攣してきた。
数秒したら意識がなくなる寸前だった。


「助け・・たい・・」

「!」


センジュの一言がフォルノスの手を緩めた。

ドサッ
とそのまま地面へセンジュは倒れた。


「は・・は・・はぁ・・」


体が痙攣している。意識はない。


「・・・お前ら」


ビクンッ
部下達はフォルノスに殺されると思い、体が震えあがった。


「この事を死ぬまで隠せるのなら、今まで通り使ってやろう」

「ま、誠ですか!?」

まさかのフォルノスの言葉に怯えつつも目を見開いた。


「ああ、だが・・一度でも噂が立ってみろ。皆殺しは確定だ。お前らの家族とやらの命もな」


「・・は、はは!!墓場まで!!」

「必ずや!!お約束致します!!!」

「行け」

「は、はい!!」


部下達は急いで部屋を後にした。
倒れるセンジュに後ろ髪を引かれる思いで。
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