魔界の華は夜に咲く
訓練所には兵士達が数人稽古をしていた。
皆、エレヴォスとセンジュを見つけると目をキラキラと輝かせた。

「センジュ様だ!」

「エレヴォス様もいらっしゃるな」

「すげえなー!放ってるオーラが違うわ」


と、皆期待に胸を膨らませ、羨望の眼差しを向けている。
センジュは視線に慣れずに恥ずかしくなってエレヴォスの後ろで縮こまった。


「どうしたのですか?」

「視線が気になって・・」

「ああ、あなたの存在は今や城では噂が絶えない程です。あの方や四大魔将と対等に意見できる唯一の存在ですからね」

「そんな大それた・・」

「大それていて良いのです。ここは王女らしく背筋を伸ばした方が示しがつきますよ」

「は、はい」


_そ、そうだよね。もう良い加減腹をくくらないといけないよね。私はパパの娘なんだから。



意を決した様にしゃんとしているセンジュにエレヴォスはクスクスと笑っている。


「ホントに素直で可愛らしい方で良かった」

「え・・」


ちゅ。


「ひゃっ!?」


兵士達が居る前で堂々とエレヴォスはセンジュの頬に唇を寄せた。
もちろん兵士達もそれには驚きを隠せない。歓声が聞こえた。
まるで見せつけるかの様にエレヴォスはセンジュの頭を撫でた。


「ちょ、エレヴォスさん!恥ずかしいです!」

「いいではありませんか。仲の良さを見せてあげましょう」


_いやいやいや、誤解されちゃうし!困るし!


それが根端だという事に気づいていないセンジュだった。
エレヴォスは周囲に見せつける事で噂を立てようとしているのだ。
ニコニコと楽しそうにしているエレヴォスを見て、誤解しない兵士はいないだろう。
2人は誰よりも仲良しそうにしていると勘違いしている。
エレヴォスはそれを確認し満足そうに的の前に立った。


「さ、真面目にやりましょうか」

「は、はい」

「私が得意とする力は水の力です」

手を広げると、手のひらから水の渦が見えた。

「ふわ・・凄い・・」

「センジュはまだ何も出す事が出来ないと報告で伺っておりますが」

「はい・・全然です」


困った顔のセンジュに、エレヴォスは相変わらずニコニコしながら聞いてくれた。

「大丈夫です、まだ始めたばかりですし。さ、目を閉じて、右手を前へかざしてください」

「はい」


言われた通りにセンジュは目を閉じ、手のひらを前に出した。


「息を全部吐き切ってください。それからゆっくりと息を吸って」

「ふ~・・すう~~」


耳元で囁くエレヴォスの声は水のせせらぎの様だ。
少しくすぐったいが、心を落ち着かせることが出来た。


「そう、手のひらに意識を持っていきましょう。集中して・・指先が徐々に温かくなっていくのを感じますか?」

「・・ん、なんとなく・・ですけど」

「いいですね。しっかりと自分の熱を感じる事が出来ています」


センジュは無心になれた。さっきまでのモヤモヤとした雑念が取り払われ、集中する事が出来た。
すると、脳裏に小さな光が見えた。


_ん?なんだろう?何か見える・・。何かが光ってる?


力を発揮するには集中力とイメージが必要だ。
魔王の血を引いているハズのセンジュだ。もしかすると訓練所はおろか城を破壊しかねないと踏んでいた。
万が一を備えながらエレヴォスは見守った。


「何か感じるものがあれば、それをイメージして膨らませて」

「はい・・」


_光が近づいてくる・・?


白い様な、青い様な、丸い光が徐々に大きくなってセンジュへと近づいてきた。


「ぁ・・・っ!?」


その光が急に加速し、センジュの意識へと向かって飛び込んだ。


「センジュ!」


倒れたセンジュをエレヴォスはすぐに抱きとめた。
それは時間にして数秒ほどしか経っていなかったが、センジュの深層の世界では長い時間に感じられた。

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