魔界の華は夜に咲く
センジュの部屋に戻ると、リアが早速紅茶と菓子を用意してくれた。
エレヴォスがニコリとリアに目配せすると、察したリアは部屋を後にした。

「うん、美味しいですね。ほっとします」

2人はソファーに座りお茶を堪能した。

「はい」

まだ元気のないセンジュに、エレヴォスは困った顔で接した。


「どうしました?もしかして、フォルノスのせいですか?」

「・・・いえ」

「そんな顔しないでください。今は私が傍にいるのですから」


ドキン


_あ、私・・凄く失礼かもしれない。自分の世界に入っちゃってた・・。


「ご、ごめんなさい・・本当に違うんです!」


ぎゅっ。
エレヴォスはセンジュを包みこむと、頭をゆっくりと撫でた。まるで子供をあやす様に。


「フフ、もっと私を頼ってくださいね。あなたが悩んでいる時、私はなんでも力になりますからね」

「・・エレヴォスさん」


_この人は例えるなら天使の様な人だ。・・魔族だけど・・癒しを与えてくれる人だ。


エレヴォスはとても温かかった。
子供の時に母に抱きしめられたみたいな感覚になる。
異性を感じさせない心地よさがあった。


「・・・温かいです」

「ええ、私も温かいですよ。センジュを抱きしめるとなんだか安心します」


_なんだろう?凄く心が穏やかになって、何も考えられなくなる。ただただ、心地いい。


それはエレヴォスの特技だ。
相手を癒し、心を掴み、いつしか崇拝させられる。
そんな特技を持っているエレヴォスに、センジュが拒否など出来る訳がなかった。


「私に出来る事があればなんでも言ってください。辛い時、悲しい時はあなたを救ってみせます」

「はい・・ありがとうございます」


きゅっ。ともう一度エレヴォスが抱きしめると、優しい春の香りがした。
川のせせらぎの様な声と、甘い花の香り。
その癒しに、センジュの身体から力が徐々に抜けていった。


_あれ?なんだろ?眠気が・・。


「センジュ?どうかしましたか?」

「・・・いえ・・」


優しい手で背中を撫でられる。それだけでふわふわと眠気が襲ってくる。


「そんなにとろんとした顔をして。駄目ですよ他の男に見せては」

「・・ん」

「その顔は私だけに見せてください。私にだけ・・」


細く、綺麗な指がセンジュの頬をなぞり、顎を持ち上げる。


「・・ん・・」


ちゅ・・ちゅ・・
ゆっくりと唇がくっついては離れを繰り返す。


「私はあなたに沢山愛を注ぎます。我が君がアンジュ様を愛した様に・・私もあなたを愛したい」

「パパと・・ママ・・みたいに」

「ええ、一生傍にいて・・あなたを大切にします」


それは正にセンジュが求めている答え。
愛し愛された生活を送りたいと願うセンジュの望みだ。


「エレヴォスさんは優しいですね」


エレヴォスを切なそうに見つめるセンジュの瞳はいつしか潤み、妖艶だった。


「ああ、センジュ・・なんて可愛いのでしょう。もっと・・欲しくなってしまう」


エレヴォスの指がセンジュの服のリボンを解いた。
細い肩が現れ、エレヴォスはそこを甘噛みした。


「ん・・や・・」

「センジュ・・」


全く力が入らなかった。
まるで媚薬でも嗅がされているかの様に、手から指先までもが脱力している。


「もっと聞きたい・・可愛い声」

「はっ・・ぁ」


カプッ
と首筋を噛まれ、体がのけぞった。
すると何故か、脳裏にフォルノスの顔が浮かびあがった。
昨夜の事がフラッシュバックした。


ズキン


「あ・・」

「どうしました?」

不思議そうにしているエレヴォスを前に、センジュはその瞬間我を取り戻した。


「あ、ご、ごめんなさい・・あの・・」

「?」

「こういうのは・・その・・まだ・・」


と、手でエレヴォスの体を押したとき、エレヴォスはセンジュが我に返ったのを察した。


「すみませんでした。私としたことが・・ついセンジュが可愛くて止まらなくなって」

「・・いえ・・」


エレヴォスは服を直しながら謝罪した。

「センジュは特別な人です」

「・・え?」

「簡単に私を虜にしてしまうみたいですね」

「それはどういう・・」

「冷静でいられなくなってしまうほど、魅力的という事です。貴女の力の一部なのかもしれません」

「そんな・・」

「気を付けてくださいね。きっと、他の方も同じなのでしょう」

「ええと・・」


今までの経験から違うとも言えない。


「四大魔将の誰かならまだ許されますが・・他の兵士だった場合、我が君の機嫌を損ねる可能性もありますから」

「あ・・はい」

「そんな事になれば何が起こるかわかりませんからね、フフ」

「そう・・ですね。あはは・・気をつけます」


_全然その気がないから気を付けられる気がしないんだけど・・。


つられて笑ったが本人は無自覚だ。
エレヴォスは自分の服装も整えると立ち上がった。


「すみませんが、少し頭を冷やしてきます」

「え?そんな・・」

「冷静にならなくてはあなたを護れませんから。でも、センジュ。覚えておいてくださいね。他の者達がどうかわかりませんが、私はあなたの味方です。あなたを傷つける事は決してしませんから」

「・・はい。ありがとうございます」


そう言ってエレヴォスは部屋を後にした。


_エレヴォスさんは本当に大人だな。穏やかで心が広くて・・私もあんな余裕があったら良かったのにな。
でも、さっきはフォルノスの顔が浮かんできたから流されずに済んだ。良くないけど、良かった。


とホッと安堵した。
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