バイト会長の奮闘日記

背中に壁の感触

目の前には〝彼〟

なんでいるの? 帰ったんじゃなかったの?

そんな疑問が浮かんだけれど、すぐに何も考えられなくなった。

彼が、私の首元に顔をうずめてきたから。


「ひゃぁっ」


彼の吐息が素肌にかかって、背中がぞわっとした。

思わず変な声が出る。

それが恥ずかしくて、振り払おうとするけれど、腕を強く握られて、上手く抵抗できない。

肩口にうずめられた顔は、首筋を伝って上がってきて、耳の裏をペロッと……舐められた。


「っっ……」


口を固く結んで、かろうじて声を抑える。

カリッ


「ひぁぅっ……」


今度は耳を軽く噛まれて、堪えきれず声が漏れる。

鼻先が肌をかすめるたび、背筋がそわそわっとする。

寒気ではなく、くすぐったいような、そんな感じ。

知らない男の人に与えられる未知の感覚に、怖くて目の前が滲んでくる。


「ふ、ぅ……ぐすっ」


私の嗚咽が聞こえたのか、ふと彼が顔を上げた。

涙でよく見えないけれど、目があった気がした。


「その顔、たまんねー……」


「んんっ!? 〜〜〜〜〜っ」


唇に生温かい感触。

キス、されてる……

信じられない出来事に、またじわっと涙が溢れた。

抵抗できない悔しさと、恐怖がない混ぜになったよくわからない感情が押し寄せる。


「カズサ! 何やってるの!?」


そんな声とともに、私を拘束していた力がなくなった。

足に力が入らなくなって、その場にへなへなと崩れ落ちた。

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