綺桜の舞う
鬼王総長が放った『愛する人』って言葉に無意識に過剰反応していた叶奏ちゃん。
チラッと湊の方を向いて、それに反応した湊の言葉が、叶奏ちゃんの覚醒を加速させたように、俺には見えた。


それは、彼女の心の裏側に、何かあったわけだからそんな反応をしたはず。
だって普通に考えて、感情を失う、なんて、大それた言葉を使うとあの2人の愛情が確かなら、失う必要のないもの。
それでも、叶奏ちゃんが変わったのは、何か、深層心理に訴える、湊への隠し事か。


きっとあの自我の失い方は、あの子が二年間の記憶を失った時と同じように、身体が自分を守るためにした簡素版的な応急処置。


身体が劇的なストレスを感じて一時的に何も考えさせないようにしたのが昨日。
それが長期的、かつ壮絶に起こったのが2年半前の記憶喪失。


医者じゃないからどんな原理か、本当にそうなのかはわからないけど、側から見ているだけだと、そう考えざるをえない。


……なくなった二年間、割と叶奏ちゃんにとって重いものかもしれない。
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