綺桜の舞う
そう言って陽向の肩を叩いたのは有村。


「……後悔とか、後でいいから。今は死ぬ気で潰せよ」


有村の低い声。
陽向は顔を歪めて、叶奏が戦う有象無象の集まりへ駆け出していく。


『湊〜聞いて、路地裏で族潰しの捨て犬拾った〜。
過去は詮索しないって条件で連れて帰ってきちゃったから何も聞いちゃダメだよ〜』


聞けない。
陽向の過去に何があったのか。
叶奏の、何を知ってるのか。
俺は聞けない。


ただし、多分。


過去の有村との交際。
2年前の破局。
後悔と涙。
攻撃傾向と守備の体勢。


あいつは明らかに、かつての夜桜のメンバーで。
それも、あの抗争に参加している。


そして伊織も、それに気付いてる。


それだけは、確信を持って言える。


あの時伊織が言ったあれは、族に捨てられた犬なのか、族を捨てた犬なのかはわからないけど。


とにかく、あいつは、死にたがりの捨て犬だ。

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