綺桜の舞う
殴られる総長に意識がいかないくらいの記憶ってなんだよ……。


「俺今から会いにいくのあり?」
「いーけど、無視されても萎えんなよ?」


親御さんとも口聞かないらしいから、と伊織。
俺はその言葉に軽く頷いてスリッパを履いて点滴を引きずって歩き始めた。


ひとつ上の階、1人部屋の叶奏の元へ行く。
俺は外で待ってるから、と部屋の前で離脱した伊織を背中にドアを開けた。


「……叶奏」
「……っ、」


ドアに背を向けてベッドに横になっている叶奏は俺の声にピクリと肩を揺らす。


「調子、どう?」
「……」


叶奏はゆっくり振り返って、俺しかいないことを確認すると、掠れた声で何か呟いた。


「ん?」
「…………嫌いに、ならないで」


ポタポタと涙を流して視線を落とす。


「大丈夫。泣かなくていいから」


俺は叶奏に歩み寄って、いくらか細くなった身体を抱き寄せる。
< 342 / 485 >

この作品をシェア

pagetop