綺桜の舞う
「俺が叶奏のこと嫌いになるわけない」
「……」


叶奏は何も言わず、ただ泣いていた。
小さく嗚咽をこぼして、俺の背中に腕を回していた。


数時間後、結局なんの話もできずに、叶奏は少し目を腫らして眠ってしまった。
俺は病室を出る。


「どうだった?」


数時間、しっかり病室の前にいたらしい伊織が小さく呟く。


「話はできなかった……けど」
「けど?」
「嫌いにならないでって言われた。……多分、確実だな」
「……あぁ、そっか」


それは、厳しいな、と呟く伊織。


「蛍ちゃんの話も聞けてない?」
「……あぁ」


満島蛍。
3日前から、姿を消した。


朔に寄れば、階段への道が切り開いて、俺がそこを駆け抜けた後、その後ろを走ってきた朔は2階の部屋で蛍を見つけたらしい。


あの2人の間で、どんな話が繰り広げられたかはわからないけれど、今ここに蛍が戻っていないことは事実だし、朔が言うには、



蛍は向こう側の人間だった、と。
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