綺桜の舞う
「蛍のこと、どう思う?」
「どうって?」
「その……裏切り、の件とか」
「あー……。


俺には、ちゃんと朔のこと好きなように見えたし、みんなと一緒にいるの楽しそうだった。到底、裏切り者とか、想像できる感じではなかったよ」


雪兎は真面目な声色でそういった。
沈黙が、訪れる。


……俺も、そう思ってたよ。


あの日、あのとき。


『蛍は、夜桜のこと知りたかったから。
朔のこと利用してただけだよ』


いつも通りの甘えた声、子供っぽい口調でそう言われるまでは、俺も蛍のことを信じてた。
……けど。


「……俺、もう何信じたらいいか、わかんないんだよ」
「……そーだね。ここまできたら、疑心暗鬼にもなるよね」


誰が味方なんだろうね。


雪兎の言葉は空虚に消えた。
俺がその言葉を拾えるには、少し嗚咽が邪魔をしすぎた。
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