綺桜の舞う
◇ ◇ ◇
「沙彩ちゃんっ」
ぴょこぴょこといつも通り私の後ろをついてきて、結局私の手を握って追い抜かして。
無理やり私に走らせる陽向。
「ちょ、速いって」
「急いでよ〜。お昼食べる時間なくなっちゃうよ?」
「いつも通りに教室出てんだからあるでしょ」
それでも速く〜、と楽しそうに笑うのはあからさまに空元気。
どうしようもないくらい、私たちは虚無感に襲われている。
それは叶奏のことで、蛍のことで、今後に起こる展開が予想できてしまうこと。
この、感覚。3年前も感じていた。
「陽向」
私は足を止めて陽向を引き止める。
中庭。誰もいない。
「ん?」
いつも通りに優しい笑顔の陽向。
女の子顔負けの可愛らしい顔が、私の方に向く。
これは、現実。
私の目の前には陽向がいて。
私の手を、握ってくれていて。
まだ陽向は、ちゃんと生きてる。