綺桜の舞う
49.小さな恋色
「ほんとに付き合っとかなくていいの?」
「いーよ。受験の方が大事だし」


放課後の教室。
あんずは、やけに真面目な顔で数学を見つめている。


「集中、出来てないみたいだけど」
「……うるさいなぁ。夕も勉強しなよ」
「推薦で受かったから。だからお前の面倒見てんじゃん」
「……もう、ほんっとデリカシーないよね?受かってない人間の前で言う?それ」
「色恋にうつつ抜かして落ちました、なんて天丼、見たくないよ、俺も」


あんずはむしゃくしゃした顔で窓の外に視線を移した。


……別に、付き合っときゃいいのに。
遅かれ早かれ伊織のとこ行くんだったら、早い方がいいじゃん。
あいつのチャラさ、知らないわけでもないだろうに。


健気だよな、ほんとに。


「……複雑な気持ち、なったりしないの?」
「なるけど。普通に」
「よくそんな平然とした顔してられるよね?意味わかんないんだけど」
「内心死ぬほど焦ってるけど。ていうか焦ったところでお前の気持ち変わんないし。幸せなら良いんじゃね?」
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