わがままな女神たち
「専務に知らせた方がよくありませんか?」

え?

「だって、黙っていたってバレたら怒りますよ」

まあ、それはそうなんだけれど、

「ちゃんと胃カメラを受けてからにするわ」
「えええ、胃カメラするんですか?」
「するわよ」

胃の調子が悪いんだからしかたないじゃない。

そもそも、麗子の家系は母も祖母も胃が弱い。
母は胃潰瘍を何度も繰り返していて半年に1度の胃カメラが必須になっているし、祖母は5年前に胃ガンになり大きな手術をした。
だから麗子もと思うわけではないけれど、子供の頃からすぐにお腹を壊す子だった。

「出来れば午後からでも行ってください。今日は暇ですから」
「ええ、でも・・・」

こんな日こそ引き継ぎを進めていきたいのに。
孝太郎がいると、事務作業ははかどらないから。
それに、いくら胃腸が弱くても食事が出来ないほど具合が悪くなったことは初めてで、もしかしたら大きな病気かもしれないと不安もある。

「もういいわ。ほら、お昼に行ってらっしゃい。私は持ってきたトマトジュースを飲むから」

麗子は小熊の背中を押すように部屋から出した。


もし、本当に命に関わるような病気だったらどうしよう。
孝太郎にとって今が一番大事なときなのに、私が病気になれば結婚どころではなくなってしまう。

はあぁー。
大きな溜息が出てしまった。

1日でも早く病院へ行かないといけないけれど、行くのが怖い気もする。
この幸せな時間を失いたくなくて、耳を塞いでいたい。
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